なぜ「節税物件」は負動産になるのか──4年償却の出口
この記事でわかること
Q. 4年償却の物件は、なぜ最後に売らないといけないのですか?
Q. 不動産の譲渡損が出たら、給与所得と相殺できますか?
Q. 簿価がゼロなら、損して売っても税金はかからないのでは?
Q. 築古木造は出口で売りにくいというのは本当ですか?
Q. 出口まで含めて損か得か、どう判断すればいいですか?
「この物件、節税で◯◯万円戻りますよ」——そう書かれた紙を見せられたとき、私が最初にやることは決まっている。その数字の続きを、自分で計算することだ。
営業の試算は、たいてい4年目で終わっている。減価償却が一番効く、いちばん見栄えのいいところまでだ。だが私が知りたいのはその先——6年目に、この建物を、誰に、いくらで売るのか。出口まで電卓を叩いて初めて、4年償却の本当の損益が見えてくる。そして残念ながら、出口まで通すと「節税物件」が「負動産」に化けるケースは、珍しくない。
4年償却は「売って初めて完成する」設計
まず押さえておきたいのは、4年償却が売却を前提に組まれた手法だという点だ。普通の不動産投資と、ここが決定的に違う。
築22年を超えた木造は、簡便法で耐用年数が4年になる(法定耐用年数22年 × 20% = 4.4年 → 4年)。だから建物部分を4年で一気に償却でき、保有中は大きな赤字を給与・事業所得と損益通算して、最高55%(所得税45%+住民税10%)の税率で圧縮できる。ここまでは営業の言う通りだ。
問題はその後である。
- 4年で簿価がゼロになり、減価償却という節税の盾が消える
- 5年目以降は、家賃収入がそのまま総合課税の対象になる。高所得者なら、その家賃に最高55%が乗る
- つまり物件は、「節税装置」から「納税装置」へ裏返る
保有中に55%で取った控除を、売却時の低い譲渡税率(5年超の長期で約20.315%)で精算して、はじめて税率差の利益が完成する。売らなければ、前半の控除だけ受け取って、後半の安い税率を一生実現できない。出口は任意ではなく、構造上の必須手順なのだ。
詳しい仕組みは4年償却とは?と5年超売却が鉄則|短期・長期譲渡の税率差に譲る。ここでは「売らないと終われない」という前提だけ握っておいてほしい。
出口の損益は、ほとんど土地が一人で決める
では、その出口でいくら残るのか。建物2,000万・土地2,000万で買った物件を例に、出口まで計算してみる。
前提を置く。建物は実勢で1,500万まで値下がりした(経年で必ず下がる。ここは−500万で固定)。4年で簿価はゼロ。課税所得は最高税率55%の帯。家賃と仲介手数料は、土地の効果だけを切り出すため、いったん外す。
この状態で、土地だけを上下に振ってみる。
| 土地の動き | 売却総額 | 譲渡所得 | 税効果(控除+1,100−譲渡税) | 実物の増減 | 総損益 |
|---|---|---|---|---|---|
| 土地 +500(2,000→2,500) | 4,000万 | 2,000万 | +1,100 − 406 | ±0 | +694万 |
| 土地 ±0(2,000→2,000) | 3,500万 | 1,500万 | +1,100 − 305 | −500万 | +295万 |
| 土地 −500(2,000→1,500) | 3,000万 | 1,000万 | +1,100 − 203 | −1,000万 | −103万 |
譲渡所得は「売却総額 −(建物簿価ゼロ + 土地取得費2,000万)」、譲渡税はそれに20.315%(5年超保有の長期譲渡)を掛けたものだ。なお家賃・仲介手数料・取得時の諸費用は、土地の効きを切り出すためにいったん外した“税と土地だけ”の理論値で、実際の手取りはここに家賃を足し、諸費用・残債を引いた額になる。
この表でいちばん大事なのは、動いている数字が土地だけだということ。建物の値下がり(−500万)も、税率差の利益も、ほぼ定数。スイングしているのは土地の一行だけで、それだけで結果がプラス694万から、マイナス103万まで振れる。
4年償却の出口は、煎じ詰めれば「土地が下がらない場所を引けたか」という一点にかかっている。建物の損は計算に織り込み済みで、最後に勝敗を決めるのは土地なのだ。土地按分そのものの考え方は土地・建物の按分計算に詳しい。
節税を最大化した物件ほど、出口が詰まる
ここからが、出口まで計算しないと見えない部分だ。節税を最大化する物件選びと、出口で売りやすい物件は、ことごとく逆を向く。
節税を太らせたければ、建物比率を高くしたい(償却できるのは建物だけだから)。土地を薄くするということは、裏を返せば——
- 土地が薄い=地価の安いエリアに偏る。地価の安い場所は、人口動態の弱い地域に寄りやすい。さっきの表で言えば、いちばん避けたい「土地−500」の側に近づく
- 建物は耐用年数切れ。次に買う人が、金融機関の融資期間を確保しにくい。木造は法定耐用年数22年が融資年数の目安になりやすく、それを超えた建物は現金で買える層にしか売れないことが多い
- 現金客しか買えない物件は、当然買い叩かれる。出口価格にディスカウントが乗る
念のため補足すると、築古木造の節税スキームは次の買い手も同じ4年償却を回せるため、買い手がゼロになるわけではない。築古木造を専門に扱う投資家市場は実在する。ただしその市場は、上の理由で現金中心・割安前提・立地を厳しく選ぶ。「売れない」というより、「自分が期待した値段では売れない」が実態に近い。
そしてローンを使っていれば、もう一段重くなる。耐用年数オーバーの短い融資は元本が減りにくく、6年程度では残債が思ったほど落ちない。出口価格が残債を割れば、売るために持ち出しが必要になる。売るに売れない——区分ワンルームで起きるのと同じ袋小路だ(ワンルーム投資「売るも地獄、売らぬも地獄」)。
救われる損と、見捨てられる損
最後に、いちばん効いてくる非対称を置いておく。同じ「値下がり」でも、建物の損と土地の損では、税務上の扱いがまるで違う。
| 損の種類 | どこで顕在化するか | 本業所得との通算 |
|---|---|---|
| 建物の値下がり | 保有中の減価償却(不動産所得の赤字) | できる(55%で控除済み) |
| 土地の値下がり | 売却時の譲渡損失(分離課税) | できない |
建物の値下がりには逃げ道がある。保有中に減価償却として、最高55%の本業所得にぶつけて控除済みだからだ。建物がいくら傷んでも、その損は高い税率で受け止められている。
ところが土地の値下がりだけは、減価償却という逃げ道を持たない。土地は償却できないので、その損は出口の譲渡損失としてしか現れない。そして投資用不動産の譲渡損失は、給与・事業所得と損益通算できず、翌年への繰越控除もできない(租税特別措置法31条等)。同じ年に別の不動産の譲渡益でもあれば内部通算できるが、なければその損は宙に浮いて消える。居住用財産(マイホーム)なら通算・繰越の特例(同法41条の5)があるのに、投資用には効かない。
しかも、もっと残酷な逆転がある。簿価がゼロまで落ちているせいで、出口はそもそも「損」にすらならないことが多い。
- 売値 ≧ 土地の取得費 → 税務上は譲渡「益」→ 経済的に損していても約20.315%課税される(さっきの表の「土地−500」がこれだ。実物は1,000万減ったのに、税務上は1,000万の益として課税された)
- 売値 < 土地の取得費 → ようやく譲渡「損」→ だが本業所得と通算も繰越もできず、使えないまま捨てる
どちらに転んでも、買い手が損をする。「使える損は高い税率にぶつけられ、使えない損だけが手元に残る」ように、入口と出口で税制が非対称に効いている。建物の損は高い税率で救われ、土地の損だけが裸で残る——この非対称が、出口の失敗を一段重くする。
売れないこと自体は、まだ負動産ではない
ここで、もう一段だけ正確を期したい。「売れないこと」イコール「負動産」ではない。
家賃が十分に出ている物件なら、売れなくても、持っているだけで手元はプラスで回る。売却できないのは「税率差の利益を取りそびれた」というだけで、痛手ではあっても出血ではない。塩漬けにはなるが、毎月お金を吸われるわけではない。
本当の負動産は、「売れない」と「利回りが足りない」が重なったときに生まれる。償却が切れた5年目以降、家賃には最高55%が乗る。その重い税を払ったあとでも回るだけの利回りがなければ——持てば毎月の持ち出しが続き、売れば実損か幻の益課税、損は使えない。ここで初めて、全部の扉が閉まる。
裏を返せば、出口が塞がれても、利回りという安全網さえ十分なら負動産にはならない。だから判断の最後は、いつも一本の数字に戻ってくる。
償却が切れたあとの家賃でも、税引後で黒字になる利回りか。
これが損益分岐利回りだ。出口が市況や融資情勢に左右される——つまり運任せになるからこそ、入口でこの分岐をしっかり超える物件を選べているかどうかが、優良資産と負動産を分ける最後の一線になる。
売り手の利益は、契約した瞬間に確定している
なぜ、この出口の話が事前に語られないのか。利益のタイミングを並べると、構造が透けて見える。
| 損益が確定するタイミング | 見え方 | |
|---|---|---|
| 売り手(販売・仲介) | 契約した瞬間 | 再販マージン・手数料を前倒しで回収 |
| 買い手 | 数年後の出口まで確定しない | 損は「見えにくい控除」と「値下がり」で後ろ倒し |
売り手は、契約した時点で手数料を取り切っている。その瞬間に、あなたの6年後の出口に対する利害を失う。だから出口を語る動機がそもそもない。「節税◯◯万円」という“いま一番刺さる数字”は、この後ろ倒しの損を覆い隠すのに、ちょうどいい道具なのだ。
念のため言えば、これは違法ではないし、嘘でもない。問題は「保有中の良い数字だけを見せ、出口を語らない」という情報の非対称にある。だから批判すべきは特定の会社名ではなく、出口を含めない試算の見せ方そのものだ。当メディアが社名を出さないのは、そのためである。
だから「自分の数字で、出口まで」
ここまでをまとめると、4年償却で負動産を掴まないための条件は、意外とシンプルになる。
- 出口の勝敗を決めるのは土地。地価が最低でも横ばいの立地を選ぶ
- 節税最大化(古い建物・高い建物比率・薄い土地)に振り切るほど、出口の融資と流動性が細ることを忘れない
- 土地の損は税務的に裸。建物の損より、土地の損のほうがずっと怖い
そのうえで、営業の試算を眺めるのではなく、自分の物件価格・課税所得で、売却の譲渡税・仲介手数料・残債まで引いた「最終手取り」を出してみてほしい。判断の軸は「これ以上の表面利回りなら最終黒字」という損益分岐の利回りだ。物件の利回りがそれを上回れば出口まで通しても黒字、下回れば節税が出ても最終赤字になる。
「結局いくら手元に残るのか」を保有期間の正味まで分解した話は、4年償却、結局いくら手元に残るのかで詳しく書いた。本記事と合わせて読むと、入口(正味の節税)と出口(流動性と税の非対称)の両側が揃う。
ただし、これは築古木造に限った話だ
最後に、いちばん大事な但し書きを置いておく。ここまでの出口の力学は、すべて築古木造(築22年超・簡便法で4年償却)を前提にしている。物件タイプが変われば、話はまるごと変わる。
- RC造(新築・中古ワンルーム等):法定耐用年数が長く(住宅用47年)、築古でも年間の償却が小さい。ここで論じた「幻の償却」も「税率差」も薄く、出口の主役はむしろ買った瞬間の含み損になる(ワンルーム投資「売るも地獄、売らぬも地獄」)
- 軽量鉄骨:耐用年数は中間(おおむね19〜27年)。償却スピードも出口も、木造とRCの中間に位置する
- 新築木造:耐用年数22年をフルに使うため償却は緩やかで、4年償却の梃子は効かない
「節税不動産」とひとくくりにすると、ここを取り違える。4年償却の損益構造は、築古木造という特定の箱の中でだけ成り立つ話だ。物件タイプ別の違いは構造別の比較も参考にしてほしい。
このサイトと姉妹サイトの役割分担
当メディア〈4年償却ナビ〉が深掘りするのは、医師・高所得者の「築古木造 × 4年償却 × 節税」——つまり本記事のような、節税スキームの入口から出口までだ。
一方、RC・新築・区分マンションを含む全物件タイプの出口・評価・物件選びは、姉妹メディア〈不動産解体新書〉(業者語を素人語に翻訳する収益物件メディア)が扱っている。たとえば〈「満室・利回り12%」に騙されない〉や〈全空室の一棟物件はなぜ売られているのか〉のように、節税を外した“素の収益物件”の見極めが読める。
「節税の出口」は本サイト、「収益物件全般の見極め」は不動産解体新書。読者層も射程も違うので、自分の物件タイプに合うほうで読んでほしい。
まとめ
- 4年償却は売って初めて完成する設計。償却切れ後の保有は、家賃が最高55%課税の重荷に裏返る
- 出口の損益は、ほぼ土地が一人で決める。建物の値下がりも税率差も定数、振れるのは土地だけ
- 節税を最大化する物件ほど、出口の融資・流動性が細る。耐用年数切れ→現金客のみ→買い叩き、レバレッジなら残債割れ
- 建物の損は減価償却で救われ、土地の損だけが通算も繰越もできず裸。簿価ゼロのせいで、実損なのに譲渡益課税される逆転もある
- 売れないこと自体は負動産ではない。負動産=「売れない」×「利回りが損益分岐未満」の交差点。利回りという安全網が要る
- ここまではすべて築古木造(築22年超・4年償却)に限った話。RC・新築・軽量鉄骨では償却も梃子も出口も変わる
- 売り手は契約時に利益を確定し、出口を語る動機を持たない。だから自分の数字で、出口まで計算するしかない
関連記事
本記事は一般的な情報提供を目的としており、特定の税務上の助言ではありません。税制は法令改正や国税庁の通達等により取扱いが変更される場合があります。具体的な税務判断については、必ず税理士等の専門家にご相談ください。


